金沢八景の石内さんのアトリエにお邪魔させてもらった時に、

石内さんが年明けにまた広島に被爆資料を撮影しに行く、という話を聞いた。

仕事でどたばたの真っ只中だったが、無理を通して、

石内さんの広島での被爆資料の追加撮影に、同行させてもらった。



石内さんの事を知るごとに、彼女の人間としての強さ、自由闊達さを、

彼女が幼いころ横須賀でしてきた経験の重さを、

そしてこの女性がたどってきた人生の余りの見事さを、思わずにはいられない。



そして、30年前から今までずっと、カメラもオートフォーカスで、

照明は自然光のみ、三脚も使わない、手ブレも気にしない。

撮影は、自分が撮りたいもの、自分に関係のある物しか撮らない徹底振り。

被写体と向かい合う際に、頼りになるのは自分の感受性と人間性のみという、

芸術家的な姿勢を貫き通して勝負してきた、今では本当に稀有な写真家だと思う。



その彼女が、全くの個人として、広島の原爆の被爆資料を、

平和記念資料館の、3階の廊下の片隅で、太陽とにらめっこをしながら、

淡々と撮り進めていく様を、後ろから見守っているうちに、

彼女は本当に身一つで、「ひろしま」と向かい合っているんだなぁ、と感動してしまった。


この、ほんとに、地味で、小規模で、個人的な行為を通して、

30年以上もずっと、彼女は「世界」と向かい合ってきたのだ。


彼女は何のごまかしもない、一人間として、被写体と向かい合い、会話しながら、

シャッターを静かに切っていく。


そうして彼女の手で写真となった被爆資料たちは、

写真集や展覧会のなかで、多くの人の目に触れ、世界のあちこちの空気を吸い、

写真として、世の中に羽ばたいていく。


本当に大切で、尊い行為は、いつもたいていは、

このように、淡々と、ひどく飾り気なく進められているのではないだろうか。

そのような行為のほうが、いかにもな仰々しい行為よりも、

ずっと信頼できる気がする。





写真に映っている、石内さんの助手を務めているのは、

平和記念資料館のS村さんという若い女性スタッフ。

こんなに若い女性が、2万件近い被爆資料を全て管理しているのにも驚かされた。

彼女の元には、今も新しく持ち主の手を離れた「遺品」たちが、届けられ続けている。

石内さんは彼女の事を「墓守」だと言う。 

だから、彼女を信頼できると。

彼女がここに居る間は、自分は「ひろしま」の写真を撮り続けるつもりだ、とも。




そういえば、石内さんと宮島を訪れる際にボートから見れた、原爆ドーム。

思った以上に小さくて、とても健気な感じがした。


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